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高松高等裁判所 昭和44年(ネ)25号 判決 1973年4月26日

主文

一審原告(控訴人兼被控訴人)の一審被告(被控訴人兼控訴人)森西利亘、同(同)森西信雄に対する各控訴および一審被告(被控訴人兼控訴人)森西泰海に対する控訴中原判決添附別紙目録(三)の4記載の不動産に関する部分を却下する。

一審原告(控訴人兼被控訴人)の一審被告(被控訴人兼控訴人)森西泰海に対するその余の控訴を棄却する。

一審被告(被控訴人兼控訴人)らの控訴に基づき原判決を左のとおり変更する。

一審原告(控訴人兼被控訴人)に対し、一審被告(被控訴人兼控訴人)森西利亘は原判決添附別紙目録(一)記載の各不動産について、一審被告(被控訴人兼控訴人)森西信雄は原判決添附別紙目録(二)記載の各不動産について、一審被告(被控訴人兼控訴人)森西泰海は原判決添附別紙目録(三)記載の各不動産について、それぞれなされた昭和二九年四月二三日徳島地方法務局古宮出張所受付による昭和二八年一二月一五日相続を原因とする所有権移転登記につき、いずれも昭和二八年一二月一五日相続を原因とし、それぞれ前記各一審被告(被控訴人兼控訴人)の持分の割合を一二分の一一、一審原告(控訴人兼被控訴人)の持分の割合を一二分の一とする所有権(共有権)移転を表示する登記となるように更正登記手続をせよ。

一審原告(控訴人兼被控訴人)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その四を一審原告(控訴人兼被控訴人)の負担とし、その余を一審被告(被控訴人兼控訴人)らの負担とする。

事実

一審原告(控訴人兼被控訴人、以下単に一審原告という)代理人は、「原判決中一審原告の第一次的請求を棄却した部分を取消す。一審原告に対し、一審被告(被控訴人兼控訴人、以下単に一審被告という)森西利亘は原判決添附別紙目録(一)記載の各不動産について、一審被告森西信雄は同目録(二)記載の各不動産について、一審被告森西泰海は同目録(三)記載の各不動産について、それぞれ昭和二九年四月二三日徳島地方法務局古宮出張所受付による昭和二八年一二月一五日相続を原因とする所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。一審被告森西利亘は原判決添附別紙目録(一)記載の各不動産について、一審被告森西信雄は同目録(二)記載の各不動産について、一審被告森西泰海は同目録(三)記載の各不動産についてそれぞれ譲渡その他一切の処分をしてはならない。訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。」との判決ならびに一審被告らの控訴について「本件各控訴を棄却する。控訴費用は一審被告らの負担とする。」との判決を求め、一審被告ら代理人は、一審原告の控訴に対し、「本件控訴を却下する。控訴費用は一審原告の負担とする。」との判決ないし「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告の負担とする。」との判決を求め、控訴の趣旨として「原判決中一審被告ら敗訴部分を取消す。一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張、証拠の提出援用、その認否は、つぎのとおり附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それを引用する。

原判決三枚目裏一行目「遺産相続」とあるつぎに「(旧法)」と加入し、同二行目「妻たる前記美代子(原告の母)と」あるのを削除し、同三行目「各三分の一」とあるのを「各二分の一」と訂正し、同五行目から六行目にかけて「登記原因のない」とあるのを「登記原因がなく、かつ、原告名義の偽造書類を使用してなされた」と訂正し、原判決四枚目表六行目「右各登記は」とあるつぎに「前記福雄の遺産分割の協議もととのつていないのに、原告名義の偽造書類を使用してなされたもので」と加入し、原判決五枚目表四行目「その妻美代子と子である昭及び原告の三名である」とあるのを「その子である昭及び原告の二名である」と訂正し、原判決六枚目裏最終行「外二」とあるのを「外一」と訂正し、原判決八枚目表最終行に「森西健太郎」とあるのを「森西建太郎」と訂正する。

(一審被告らの主張)

一審被告ら代理人は、一審原告の本件控訴は、その求める控訴の趣旨と原判決主文とが同一であるから、かかる控訴は不適法で許されない、と述べた。

(証拠関係)(省略)

理由

一  まず、一審原告の本件控訴の適否について按ずるに、原判決によると、一審原告の一審被告利亘、同信雄に対する本訴請求は、原審において全面的に認容され、一審原告が勝訴しており、一審原告の一審被告泰海に対する本訴請求のうち原判決添附別紙目録(三)の4記載の不動産に関する部分も、同様、原審において全面的に認容され、一審原告が勝訴していることが明らかである。したがつて、以上勝訴している各請求に対する一審原告の本件各控訴は不適法で許されないものであることはいうまでもない。よつて、右各控訴はいずれもこれを却下する。ところで、本件記録によると、原判決添附目録(三)記載の不動産のうち4を除くその余の各不動産については、一審原告は、原審において、一審被告泰海を被告とし、同被告が右各不動産につき違法に相続を原因とする所有権取得登記を経たのみならず、これを不法に処分する虞れがあるなどとして、第一次的に、右各不動産はもと訴外亡森西福雄の所有であつたが、同訴外人の生前一審原告の父訴外亡森西正治が右福雄から仕分けによりこれが贈与を受け、正治の死亡により、一審原告が外一名と共にこれを共同相続して二分の一の割合による共有持分権を取得したので、右共有持分権に基づき妨害排除として、右各不動産についての所有権取得登記の抹消登記手続等を求め、予備的に、右仕分けによる贈与が認められないとすれば、右各不動産は訴外福雄の遺産であり、同訴外人の死亡により、一審原告が外五名と共にこれを共同相続して一二分の一の割合による共有持分権を取得したので、右共有持分権に基づき妨害排除として、右各不動産についての所有権取得登記の抹消登記手続等を求めたものであるところ、原判決は主文においては明示していないが、一審原告の右第一次的請求を棄却し、予備的請求を認容して本件各登記の抹消登記手続を命じていることが明らかである。そして、一審原告の右第一次的請求と予備的請求とでは、請求原因である共有権の持分が異なり、また、妨害排除の態様を異にする(後記五参照)ので、右第一次的請求は予備的請求とは別の請求であると解されるから、原審において第一次的請求が棄却された以上、敗訴者である一審原告は、これを不服として控訴することができるものというべきである。したがつて、一審原告の一審被告泰海に対する本件控訴のうち原判決添附別紙目録(三)の4記載の不動産に関する部分を除くその余の控訴は適法である。

二  次に、訴変更の許否について判断する。原判決添附別紙目録(三)記載の不動産のうち4の不動産を除くその余の各不動産について、一審原告は、本訴の当初において前項後段記載の後者の請求のみを主張していたのを、後にこれを予備的に改め、第一次的請求として、新たに前項後段記載の前者の請求を主張するに至つたものであるところ、一審被告ら代理人は、右主張の変更は訴の変更であり、請求の基礎に同一性がないから、変更することは許されないと主張する。なるほど右第一次的請求の主張が追加的訴の変更に該ることは、既に前項において判断したところにより明らかである。しかしながら、右第一次的請求と予備的請求は、共に、右各不動産についての共有持分権に基づき、一審被告泰海が右各不動産につき違法に相続を原因とする所有権取得登記を経たのみならず、これを不法に処分する虞れなどがあることを理由とするものであつて、ただ、右各不動産に対する一審原告の共有持分が、第一次的請求では二分の一の割合であるのに対し、予備的請求では一二分の一の割合であつて、その割合を異にするに過ぎないのであるから、前記の如く第一次的請求が追加的に主張されたからといつて、請求の基礎に変更があるということはできない。そして、別に特段の情況もないから、右訴の変更は許されるものというべきで、この点に関する一審被告ら代理人の主張は失当である。

三  そこで、訴外正治が訴外福雄から前記各不動産を仕分けとして贈与を受けた旨の主張について判断する。

(一)  一審原告は、本訴において当初前記各不動産は訴外福雄の遺産であると主張し、一審被告らにおいてこれを認めていたのを、後にいたつて第一次的請求を主張するに当り、それよりさき訴外正治が訴外福雄から贈与を受けて所有権を取得したものであると主張を改めたものであるところ、一審被告ら代理人は右主張の変更は自白の撤回にあたり許されないと主張する。しかしながら、本件における当事者双方の主張を弁論の経過に照らし検討すると、一審原告が後になした主張は、1、前記各不動産はもと訴外福雄の所有に属していたものであること、2、訴外正治はこれら不動産について訴外福雄から贈与を受けたものであることというのであり、これに対し、一審被告らは右1の主張を認め、2の主張を否認し、一審原告主張の贈与が認められない以上右各不動産は訴外福雄の遺産であると主張しているにすぎないのであつて、一審原告が当初前記各不動産は訴外福雄の遺産であると主張していた事実を目して、一審原告が相手方主張の自己に不利益な事実を真実と認める陳述をなしたものと解することはできないから、一審原告が裁判上の自白をしたものということはできず、この点に関する一審被告ら代理人の主張は理由がない。

(二)  そこで贈与の成否について判断するに、原審および当審証人原田文子、同原田ヒカル(原、当審とも各第一、二回)、同森西建太郎、同大石徳三郎の各証言ならびに原審における一審原告法定代理人金島美代子本人尋問の結果中、前記各不動産を訴外正治が婚姻に際し仕分けとして贈与を受けたものであるとの一審原告の主張に沿う部分は、原審および当審証人森西コヨシ(当審は第一、二回)の証言、原審における一審被告森西信雄、原審および当審における一審被告本人森西泰海各本人尋問の結果に対比すると、いずれもたやすく措信できず、他に右贈与を認めるに足る的確な証拠はない。もつとも、訴外福雄、同正治らの身分関係、正治の婚姻および死亡の時期などが一審原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に前掲各証拠などを綜合すると、訴外正治と訴外金島美代子との縁談が取沙汰されるようになつた昭和一九年春頃、訴外福雄には二男である訴外正治のほか、長男である訴外森西芳雄、三男および四男である一審被告信雄および同泰海の四人の男子があつたが、訴外芳雄は当時出征していたものの既に結婚し従前訴外福雄の生家に妻子らと居住してその周辺にある訴外福雄所有名義の農地を耕作して生計を営んでいたのに対し、当時徴用で九州において働いていた訴外正治は徴用前訴外福雄とともに訴外福雄が昭和一四年頃生家とは別に建築し所有していた徳島県美馬郡穴吹町古宮字長尾五六二番地の五所在の三階建の建物に居住し、同所で訴外福雄が営んでいた炭、酒などの販売業を手伝つていたので、いずれ徴用を解かれ帰省した際は従前どおり三階建の建物に居住し、商売に従事することが予想されており、さらに一審被告信雄、同泰海はまだ若年で将来の具体的な見通しもなかつたことなどから、訴外福雄としては将来訴外正治に前記三階建の建物のほか相当の財産を分け与えて同人を分家させる(仕分けをする)考えをもつていたので、訴外正治と訴外美代子の縁談に際しては、訴外福雄自身で、あるいは仲人を介して、訴外美代子および同女の両親に対し、将来分け与えようと考えている三階建の建物ほか凡その財産の範囲を示しいずれ訴外正治に相当の財産を分け与えて分家させる予定であることを告げたので、訴外美代子およびその両親もいずれ訴外正治が三階建の建物のほか相当の財産を分けてもらい分家するものと考えて訴外正治との縁談を承諾したものであることなどの事実が認められるけれども、他面前記各証拠等によると、訴外正治は挙式のため休暇をとつて帰省し、妻となつた訴外美代子を伴つて再び九州に赴き、数ケ月のうちに妊娠した美代子を一人で前記三階建の建物に住む訴外福雄方に帰省させ単身で働くうち、熔接作業中の事故がもとで発病して数ケ月を経て帰省し、療養を続けた後一時は多少農作業等に従事できるまでに回復したが、再び症状が悪化し、独立して生計を営むに至らぬまま昭和二一年七月一五日死亡したものであること、同人の死亡当時同人と訴外美代子との間には長男である訴外森西昭が出生しており、同女はなお一審原告を妊娠中であつたが、同女は訴外福雄の妻である訴外森西コヨシとの折合がおもわしくなかつたことなどから間もなく訴外昭を連れて実家に帰り、訴外福雄の懇請にも拘らず再び婚家に帰ろうとせず、一審原告を実家で出産し、訴外昭は後に訴外福雄方に引き取られ、一審原告は同女が引き続き養育して来たものであること、そしてその間、訴外正治または訴外美代子らは訴外福雄から前記三階建の建物や前記各不動産等の引渡を受けたことはなく、また、右の者らの間において右各不動産につき所有権移転登記手続をどのようにするかなどについて全く話し合いがなされた形跡はないことなどの事実が認められるのであつて、以上の各事実を併せ考えると、訴外正治と訴外美代子の縁談の際の仕分けに関する話し合いは、いまだ将来仕分けとして財産を分け与えて分家をさせようという予定を話し合つたにすぎないと認めるのが相当であつて、右話し合いによつて訴外美代子またはその両親と訴外福雄との間に訴外正治と訴外美代子とが結婚することを条件として、三階建の建物および前記各不動産等を訴外福雄から訴外正治に贈与する合意が成立したものと認めることはできない。したがつて、訴外正治が前記各不動産について贈与を受けたことを前提とする一審原告の主張はその余の判断をするまでもなく理由がないものといわねばならない。

四  つぎに訴外福雄の死亡による遺産相続を前提とする一審原告の主張について判断する。

(一)  原判決添附別紙目録(一)、(二)記載の各不動産および同目録(三)記載の不動産が訴外福雄の遺産であること、訴外福雄の死亡および同人の相続人の範囲、その相続分の割合等が一審原告主張のとおりであること、前記(一)、(二)、(三)記載の各不動産について一審原告主張のとおり一審被告ら単独所有名義の所有権移転登記がなされていることはいずれも当事者間に争いがない。したがつて、原判決添附別紙目録(一)、(二)、(三)記載の各不動産については、訴外福雄の死亡により訴外コヨシが三分の一、一審被告三名が各六分の一、一審原告および訴外昭が各一二分の一の割合で共同相続し、右割合による共有持分権を取得したものというべきところ、一審被告らは、一審原告から遺産分割その他の方法により前記目録(一)、(二)、(三)記載の各不動産について一審被告らの単独所有とし、単独所有名義の登記をなすことに関し、同意を得たことは何ら主張立証しないのであるから、一審被告らが右各不動産について単独所有名義の登記をしたことは、一審原告の右各不動産に対する共有持分権を侵害したものということができる。

(二) ところで、一審被告ら代理人は、一新被告らの右単独所有名義の登記が一審原告の共有持分権の侵害にあたるとしても、相続権に基づいて相続財産の回復を求める請求は、共同相続人相互の間においても相続回復請求権の行使にほかならないところ、一審原告の本件各不動産に対する相続回復請求権は、一審原告が一審被告らの単独名義の所有権移転登記のなされた事実を知つたときから五年の経過により時効消滅したと主張する。しかしながら、共同相続人が遺産分割の前提として相続財産について他の共同相続人に対し共有関係の回復を求める請求は、相続回復請求ではなく、通常の共有権に基づく妨害排除請求と解するのが相当であるから、その余について判断するまでもなく、この点に関する一審被告ら代理人の主張は理由がなく、一審原告は、その共有持分権に基づいて一審被告らに対し共有関係の回復を求めることができるというべきである。

五 ところで、一審原告は本訴において前記認定の共有持分権に基づいて一審被告らに対し原判決添附別紙目録(一)、(二)、(三)記載の各不動産についてなされた所有権移転登記の全部抹消を求めているのであるが、右各不動産については一審被告らも共有持分権を有していることが前記認定に照らし明らかであるから、一審原告は、自己の共有持分権の範囲内で妨害排除請求権を有しているにすぎないと解されるので、前記一審被告らの単独名義による所有権移転登記の全部抹消を求めることはできず、自己の共有持分権の限度において一部抹消登記(自己の実体上の共有持分権を表示するための更正登記)手続のみを求め得るものと解するのが相当である。そしてこの場合における更正登記は実質において一部抹消登記にほかならないから、裁判所は前記各登記の全部抹消を求める一審原告の申立に対し、その一部認容として更正登記手続を命じ得るものというべきである。したがつて、一審原告の一審被告らに対し前記各登記の抹消登記手続を求める本訴請求は右各登記について、現に登記名義を有している各被告の持分の割合を一二分の一一、一審原告の持分の割合を一二分の一とする共有関係の登記に改めるべく更正登記手続を求める限度で理由があるが、その余については理由がない。

六 なお、一審原告は本訴において登記抹消の請求と併せて、一審被告らが前記各不動産について譲渡その他の処分行為をするおそれがあるとして、一審被告らに対しこれら一切の処分の禁止を命ずることをも求めているのであるが、一審原告が前記認定の自己の共有持分権の限度をこえて一審被告らにこれら処分を禁ずる請求権を有しないことは明らかであり、また自己の共有持分権の限度においても、本訴において更正登記手続が認容されることになれば、本判決確定後直ちに自己の共有名義を取得しうるものであり、本判決確定後においてもなお、一審被告らの処分行為により一審原告の共有持分権に対する侵害のおそれがあることを認めるに足る証拠はないから、この点に関する本訴請求は理由がない。

七 よつて、一審原告の第一次的主張(訴外正治が生前贈与により原判決添附別紙目録(三)記載の各不動産中4を除くその余の不動産を取得したことを前提とする主張)を排斥した原判決は相当であつて、この点に関する一審原告の控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却することとするが、一審原告の本訴請求は前記更正登記手続を求める限度で認容し、その余を棄却すべきところ、原判決は本訴請求を全部認容しているので、一審被告らの控訴は前記更正登記手続をこえて認容した部分について理由があるから、一審被告らの控訴に基づいて原判決を変更し、一審原告の本訴請求は、前記更正登記手続を求める限度でこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条九二条九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

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